こんにちは、「オービット通信」編集長のパスカルです。 息を呑むような美しい銀河や星雲の写真でおなじみの「ハッブル宇宙望遠鏡」。 人類の科学技術の叡智の塊であり、平和の象徴ですが、実はその「出生の秘密」には、あまり語られない軍事的な裏話があります。
結論から言うと、ハッブル宇宙望遠鏡は、アメリカ軍の偵察衛星(スパイ衛星)「KH-11 キーホール」と、ほぼ同じ設計図で作られた「双子の兄弟」なのです。
一方は、地上を見下ろして敵基地を監視し、 もう一方は、空を見上げて宇宙の神秘を解き明かす。
今回は、全く逆の任務を背負った「双子の衛星」の数奇な運命について解説します。
鏡のサイズが「2.4m」である本当の理由

そもそも主鏡とは何か。反射望遠鏡において「一番最初に光を受け止める、メインの鏡」のことです。 人間で言えば「目の網膜」や「カメラのレンズ」にあたる、望遠鏡の性能を決定づける最も重要なパーツです。この主鏡が大きいほど、解像度が高くなります。ハッブルの主鏡は、ガラスを極限まで滑らかに磨いて作られています。 もしこの鏡を「地球の大きさ」まで拡大したとしても、表面のデコボコは「わずか数センチ」しかないと言われるほど、異常な精度で作られています。
ハッブル宇宙望遠鏡の心臓部である「主鏡(メインの鏡)」の直径は、2.4メートル。当時、アメリカ国家偵察局(NRO)が運用していた偵察衛星「KH-11」の主鏡も、全く同じ2.4メートル。実はこの数字、偶然ではありません。どちらも同じ主鏡だから一致したのです。ゼロから設計するよりも、すでに量産されていた軍事衛星の製造ラインや設計を流用したほうが、コストも安く、技術的にも確実だったからです。
つまりハッブルは、「スパイ衛星のカメラを、そのまま宇宙に向けたもの」と言っても過言ではないのです
スパイ衛星の実力がバレた「トランプ大統領のツイート」事件

長年、スパイ衛星の性能は最高機密でしたが、2019年にそのベールが剥がされる事件が起きました。 当時のドナルド・トランプ大統領が、イランのロケット発射失敗現場の衛星写真を、自身のTwitterで公開してしまったのです。安全保障的に大失態なのですが、その写真はあまりにも高精細でした。 発射台の文字まで読めるその解像度を見た天文学者たちは、解像度がハッブル宇宙望遠とほぼ同じであることに気づきました。
この事件により、スパイ衛星(KH-11)とハッブルは、やはり同等の光学性能を持っている、という噂が、証明されてしまったのです。
実際のニュース記事 Did Donald Trump tweet classified military imagery?
NASAへの「お下がり」プレゼント

この「兄弟説」を裏付ける決定的な出来事が2012年にありました。 なんと、スパイ衛星を運用するNROがNASAに主鏡の提供をしたのです。その主鏡がハッブル宇宙望遠鏡と同じサイズ、性能であるスパイ衛星の予備機でした。(※現在、このお下がりは「ナンシー・グレース・ローマ宇宙望遠鏡」として打ち上げ準備が進んでいます)
まとめ
ハッブル宇宙望遠鏡とキーホール衛星。 この2つは、同じ工場で、同じ技術で作られた「機械としての双子」です。
しかし、その「目」の向け先が違うだけで、片方は戦争の道具になり、片方は人類の知の財産になりました。 テクノロジーそのものに善悪はなく、「人間がそれをどう使うか」が重要なんだと考えさせられますね。
執筆者(パスカル)



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