こんにちは、編集長のパスカルです。 2025年、長崎と横浜で建造が進む「イージス・システム搭載艦(ASEV)」。 ニュースでは「ミサイル防衛のための船」としか紹介されませんが、その中身を詳細に見ると、これが単なる防御兵器ではないことが分かります。
基準排水量12,000トン(満載排水量はおそらく2万トン規模)、全長190m、全幅25m。 VLS(垂直発射装置)は128セル。 これは、米海軍の最強巡洋艦「タイコンデロガ級」をも上回る、西側世界でも最大級の重武装艦です。
なぜ日本は、これほどの巨艦を必要としたのか? 今回は、搭載される「SPY-7レーダーの性能」や、「搭載装備」、「運用構想」について徹底的に解説します。
船体設計:なぜ「まや型」の拡大版ではダメだったのか?

既存のイージス艦(まや型)をちょっと大きくするだけでは、この船は成立しませんでした。 その理由は、物理法則との戦いにあります。
トップヘビー問題の解消: 搭載するレーダー「SPY-7」は、元々アラスカなどの地上配備用(LRDR技術)です。これを高いマストに掲げるため、船の重心が極端に高くなります。 転覆を防ぐため、船の幅をまや型の21mから25mへと大幅に拡張。これにより、荒れた冬の日本海でも安定してビームを照射できる「プラットフォーム」としての安定性を手に入れました。
動力の謎(COGLAG?): 巨大レーダーは大量の電気を食います。 推進システムは「まや型」と同じCOGLAG(ガスタービン電気推進)方式が有力ですが、レーザー兵器を搭載する可能性もあるので、発電能力は大幅に強化されているはずです。
令和の巨艦に搭載される装備

1. 攻撃・迎撃の要「ハードキル兵器」
- VLS(垂直発射装置):Mk 41 × 128セル(予定):前述の通り、SM-3(宇宙)、SM-6(対空・対艦)、トマホーク(対地)を混載。
- 主砲:Mk 45 Mod 4 62口径5インチ単装砲: 艦首に装備。ミサイル全盛の時代ですが、不審船への警告射撃や、至近距離での対水上射撃には必須の装備です。最新の長射程誘導砲弾の使用も視野に入れています。
- 近接防御(最後の砦): 高性能20mm機関砲(CIWS): おなじみの「ファランクス」。撃ち漏らしたミサイルを、バルカン砲の弾幕で破壊
- 高出力レーザー:実用化され次第搭載。
- 対潜装備:三連装短魚雷発射管
- 対艦装備:12式地対艦誘導弾能力向上型(SSM)
2. 目と耳「センサー&ソフトキル」
- 主レーダー:AN/SPY-7(V)1 常時360度監視の最強の目。
- 副レーダー:SPQ-9B(対水上レーダー) SPY-7は遠くを見るのが得意ですが、水平線スレスレを飛んでくる低空ミサイルや、潜望鏡を発見するために、この高精度のXバンドレーダーを併用します。
- 電子戦装置:NOLQシリーズ(最新型) 敵のミサイルを「ジャミング」で無力化する電子の盾。物理的に撃ち落とす前に、これで電子的に狂わせます。
- 対潜装備:ソナー&魚雷防御 巨艦は潜水艦の格好の的です。 バウ・ソナー(艦首)だけでなく、TASS(曳航式ソナー)を引っ張り、敵潜水艦の接近を早期に察知。対魚雷デコイ(MOD)で魚雷を欺瞞します。
なぜ「SPY-7」を搭載するのか

なぜ日本は、アメリカ海軍が採用した「SPY-6(レイセオン製)」ではなく、「SPY-7(ロッキード・マーティン製)」を選んだのか?
- 技術的ルーツの違い
- SPY-6: 艦載用として開発。水上の敵や航空機など「ごちゃごちゃした目標」の処理が得意。
- SPY-7: LRDR(長距離識別レーダー)の技術を転用。宇宙空間を飛ぶICBMの弾頭を識別するような「超長距離・高精度の監視」が得意。
- 日本の選択: 日本が最優先したのは「北朝鮮のロフテッド軌道ミサイル」や「極超音速滑空兵器の探知です。 24時間365日、宇宙の彼方を監視し続けるには、「窒化ガリウム(GaN)」素子を使い、常時360度照射が可能なSPY-7の方が(当時の判断として)適していたのです。
128セルの「中身」
VLSが128セルあるといっても、全部に迎撃ミサイルを入れるわけではありません。
- 対弾道ミサイル(BMD):SM-3 Block IIA 日米共同開発の最新型。高度1,000km以上の宇宙空間で敵ミサイルを撃ち落とします。
- 対空・対艦・終末防衛:SM-6 低空を飛ぶ巡航ミサイルや、弾道ミサイルを迎撃。さらに、水平線の向こうの敵艦を攻撃する「対艦ミサイル」としても使えます。
- 反撃能力(スタンド・オフ):トマホーク Block V 日本が購入する最大400発のトマホークの一部が搭載されます。 これにより、ASEVは「盾」であると同時に、敵基地を叩ける「矛」の役割も担います。
- 対潜ミサイル:07式垂直発射魚雷投射ロケット ロケットの先端に魚雷を搭載。遠距離の潜水艦を攻撃できます。
運用構想:艦隊に縛られない「動く人工島」
「洋上固定基地」としての役割: 通常の護衛艦は、艦隊を組んで動きます。しかしASEVは、日本海などの特定海域に長期間留まり、弾道ミサイル防衛として機能することが求められます。 これは船というより「動ける人工島」に近いです。
イージス艦の負担軽減: これまで既存のイージス艦などが疲弊しながら行っていたBMD任務をASEVが一手に引き受けることで、他のイージス艦は「南西諸島(台湾有事)」などの最前線へ展開できるようになります。 つまり、ASEVの建造は「艦隊全体の運用効率化」のための切り札でもあります。
まとめ
令和の戦艦大和と言ってもいいイージス・システム搭載艦。1隻あたりの建造費は約4000億円。2隻で約8000億円。 「高すぎる」という批判は常にあります。この艦は、自衛隊が厳しい安全保障環境に対して出した答えだと思います。今後、どう活躍していくか見守っていきたいと思います。
執筆者(パスカル)



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