こんにちは。パスカルです。2026年1月6日、中国商務部が発出した「公告2026年第1号」。大手メディアの報道では「対日レアアース輸出規制の強化」という経済ニュースの枠組みで語られていますが、その中身を軍事技術的な視点で見てみると、全く別の恐ろしい意図が見えてきます。これが単なる貿易カードではなく、日本の防衛産業構造そのものを狙った「兵糧攻め」であることが浮き彫りになります。今回は、この規制が日本の安全保障にどのような影響をもたらすのか。また、これから日本が採るべき生存戦略について解説します。
前代未聞の日本狙い撃ち規制の正体
今回の規制が、過去(2010年など)のレアアース・ショックと決定的に異なる点があります。 それは、日本のみを特定のターゲットにしたという異常性です。
欧米諸国向け: 「審査厳格化」という建前だが、実質的な物流パイプは維持されている。
日本向け: 「実質的な禁輸措置」。通関審査が事実上ストップし、輸出許可が下りない状態。
日本へのレアアース輸出については、軍民両用(デュアルユース)向けのものが規制されますが、ほとんどが軍用に転用可能なので、規制の対象は車やパソコンを含む広いものなる可能性もあります。これは、台湾有事を念頭に「反撃能力」の保有や南西諸島の防衛力強化を急ぐ日本政府に対する、極めて明確な経済的威圧です。 日本経済全体を止めるのではなく、ハイテク産業と防衛産業のサプライチェーンという急所を狙ったものになります。
なぜ「重希土類」が止まると防衛産業は詰むのか
防衛省や防衛産業各社が最も顔面蒼白になっているのが、ジスプロシウム(Dy)とテルビウム(Tb)という「重希土類(ヘビー・レアアース)」の供給遮断です。
レアアースの中でも、これらは中国南部の特殊な地層(イオン吸着鉱)に偏在しており、世界の供給の90%以上を中国が握っています。そしてこれらは、現代兵器の心臓部である「ネオジム磁石」にとって、命の水とも言える存在です。
ミサイルの「誘導」が不可能になる理由
ネオジム磁石は「世界最強の磁力」を持ちますが、弱点として「熱に弱い」という致命的な性質があります。高温になると磁力が抜けてしまうのです。 そこで、ジスプロシウムやテルビウムを添加することで、耐熱温度を劇的に向上させることが可能になります。
想像してみてください。マッハ数で飛翔する「12式地対艦誘導弾能力向上型」や、空対空ミサイル「AAM-4B」を。 その操舵翼を動かす超小型・高出力のアクチュエーター(モーター)は、空力加熱による200℃近い高温と、激しい駆動による摩擦熱に晒され続けます。
重希土類あり: 高温環境下でも強力なトルクを維持し、正確に敵を追尾・撃破できる。
重希土類なし: 発射直後は動いても、加速するにつれて熱で磁力が失われ、誘導装置が機能不全に陥る。ミサイルはコントロールを失い、目標に到達することができなくなる。
つまり、重希土類を止められるということは、日本が巨額の予算を投じて整備を進めている「スタンド・オフ防衛能力」が、物理的に構築不可能になることを意味します。
ガリウムとアンチモン
さらに今回の規制では、半導体材料であるガリウムや、弾薬に使われるアンチモンも対象です。
- ガリウム(Ga): 最新鋭のAESAレーダー(窒化ガリウム素子)に不可欠。これがなければ、イージス艦や警戒管制レーダーの「眼」が作れません。
- アンチモン(Sb): 弾薬の鉛を硬くしたり、夜間暗視装置のセンサー材料になります。
これらを複合的に止めることで、中国は日本の「レーダー」と「ミサイル」、そして「継戦能力」を同時に削ぐ戦略に出ているのです。
「みなし輸出」規制:技術者を人質にする見えない罠
モノ(鉱物)が入ってこないだけではありません。今回の規制には、さらに陰湿な法的なトラップが仕掛けられています。 それが。みなし輸出規制の強化です。
1月6日の公告に基づき、中国国内にある日系企業の工場において、日本人技術者が現地の製造データやレアアース加工プロセスにアクセスすること自体が技術輸出とみなされるようになりました。
これには中国当局の許可が必要となりますが、現状、日本向けの許可は下りません。 もし無許可で業務(データの閲覧や指示)を行えばどうなるか? 最悪の場合、「国家安全危害」や「スパイ容疑」等で拘束されるリスクがあります。
これにより、中国に進出している日系素材メーカーは、以下のような完全なロックイン状態(人質状態)に追い込まれています。
- 生産活動ができない。
- しかし、撤退作業のために日本から技術者を送り込むこともできない(逮捕リスクがあるため)。
- 現地資産と技術を置いて、身一つで逃げるしかない。
これは、企業の「デリスキング(リスク低減)」や「脱中国」の動きそのものを封じ込める、極めて強力な法的な足枷となっています。
日本に残された「生存戦略」とは
あまりに絶望的な状況ですが、日本はこれで完全に「詰み」なのでしょうか? 短期的(半年〜1年)には、国内在庫の争奪戦や調達価格の暴騰により、間違いなく「地獄」になる可能性もあります。
しかし、長期的にはこのショック療法が、日本の産業構造を強靭化させる「復活のトリガー」になる可能性を秘めています。
戦略①:海底に眠るレアアース
日本は「資源のない国」と言われますが、実はその排他的経済水域(EEZ)、特に南鳥島沖の海底6,000mには、世界をひっくり返すほどの「高濃度レアアース泥」が眠っています。
- 埋蔵量: 日本の年間消費量の数百年分以上。まさに無尽蔵。
- 成分: 中国産に依存しているジスプロシウムやテルビウムが豊富に含まれているのが特徴。
これまでは「深すぎて採掘コストが合わない」とされ、中国産を買う方が経済合理的でした。しかし、「買えない」状況になった今、この海底資源は採算度外視の「国家存亡に関わる戦略物資」へとフェーズが変わりました。政府の計画では、2028年度以降の商業化を目指し、今年(2026年)から大規模な揚泥実証試験がスタートしています。
- 2026年: 中国が輸出規制を発動(在庫切れのカウントダウン開始)。
- 2028年: 南鳥島の商業採掘がスタート予定。
深海6,000mから泥を引き上げる技術は宇宙開発並みの難易度ですが、これを確立した瞬間、日本は中国の首根っこを掴み返す「資源超大国」へと変貌する可能性もあります。
戦略②:サプライチェーンの「ブロック化」
現在、オーストラリアなどが、中国以外でのレアアース供給網を構築しています。 日本政府は、こうした「有志国連合」によるサプライチェーンへの出資を加速させ、採掘から分離・精錬、そして磁石加工までを、中国を一切介さずに完結させるルートを確立する必要があります
戦略③:「省レアアース」設計への転換
最高性能のネオジム磁石ではなく、性能は劣るが入手容易な「フェライト磁石」や「サマリウム・コバルト磁石」でも稼働するように、兵器やドローンの設計を変更する。「100点の性能で1機しか作れない」よりも、「70点の性能だが1000機作れる」兵器体系へシフトすることも、有効な生存戦略の一つです。
まとめ
2026年は安全保障上大きな試練となるでしょう。南鳥島のレアアース泥という切り札は確かに存在します。しかし、その商業化(2028年)までの2年間をどう生き残るか。 在庫の取り崩しか、リサイクルの強制加速か、それともなりふり構わぬ外交か。少なくとも、中国に依存する経済体制は変える必要があるかもしれません。


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